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スポーツを通した平和の発信―エスエスケイと国連ユニタールの取り組み

株式会社エスエスケイはデンマークのスポーツブランドhummel(ヒュンメル)で、2015年より「ピースユニフォーム」を発表している。2019年からは広島県と長崎県のU-15代表が対戦する「ピースマッチ」でユニフォームを担当。そのピースユニフォームには2021年から国連ユニタールも参加し、胸ロゴを飾っている。エスエスケイの副社長・佐々木純一が国連ユニタールを訪ね、三上知佐広島事務所長と対談した。

「好きなサッカー選手は?」国境や文化を越えた瞬間

ヒュンメルと国連ユニタールの出会いは、2017年3月末にアフガニスタンU-18の女子代表チームが国連ユニタール広島事務所に招かれ、リーダーシップ研修を受けたことにさかのぼる。当時アフガニスタン代表をサポートしていたヒュンメルのPR担当者が研修会やアンジュヴィオレ広島U-18との交流会、練習を取材した。練習前の交流会では、文化も風習も異なり、スタート時は何を話したらいいのか、という手探りの雰囲気だったが、「好きなサッカー選手は誰ですか?」という質問をきっかけに、少女たちは笑顔になり、サッカーを通じてつながり始めた。

2019年にU-15年代のピースマッチにおけるユニフォームを担当するようになったヒュンメルは、2020年のコロナ禍での中止を経て、2021年から国連ユニタールにピースユニフォームの胸スポンサーに入ってもらうよう依頼。以後、広島文教大学附属高等学校で平和講演会を共同で実施したり、ロシアのウクライナ侵攻を受けてヒュンメルが発表したシャツの売上などによる寄付でウクライナから避難した女性たちの研修を行ってもらうなど、平和をテーマにした取り組みを共にしている。

冒頭に佐々木は、対談当日に広島市役所旧庁舎の地下展示室を訪れたことを紹介。庁舎は被爆地から約1キロで、一部の部屋を除いて全焼。職員と市議1,068人のうち445人が死亡するなど大きな被害が出た。「原爆ドームや広島平和記念資料館を修学旅行で訪れたときと違い、大人になり、ひとりの父親として見ると、『繰り返しちゃいけない』ということはもちろん、非常に難しい気持ちになりました」と話すと、三上さんは、『「原爆市長」という本があって、戦後初めて選挙で選ばれた広島市長について書かれているのですが、被爆後に市役所の職員がどう動かれたかが克明に書いてある。自分たちも被爆して大変な時に、市民のために動いた「利他の精神」に敬服します』と話した。

佐々木は、ピースマッチのセレモニーについて触れ、「中学生が平和への想いを宣言していて、その言葉に感動しましたし、広島の子どもたちに平和への想いが根付き、受け継がれていることを実感しました。様々な方の努力により、つながってきたものだと思いますが、我々もエスエスケイ/ヒュンメルとして、平和の取り組みをしております。ピースユニフォームをつくるだけではなく、平和の想いをつなげていく活動として発信していければと思っています。広島での取り組みは、心が学ばされることが多くあります」と振り返った。

広島だから届けられる「復興モデル」と「生きた学び」

改めて、国連ユニタールの役割や日本における取り組みについて聞くと、三上さんは、『国連の中で学びを届ける機関です。特に大人の学びを届ける。生涯学び続け、自分の専門性を高めるマネージメントやリーダーシップ研修、コミュニケーションやチームワークを学ぶソフトスキル研修を行っています。広島に事務所ができて24年目に入ります。広島の街が被爆して、そこから復興して、今日の経済発展を実現したことは、開発途上国からの研修参加者に対して、平和な国づくりや地域づくり、それから復興のモデルを提供できるのではないかと、と思っています』と話す。

2025年、国連ユニタールでは、のべ577,018人が研修や知識共有の活動に参加し、その数は2024年と比べて3%増加した。三上さんは、今準備している研修について、『以前、ウクライナ支援の研修ではヒュンメルさんにもご協力いただきましたが、今年の研修はウクライナの国内避難民の方を対象にしています。ウクライナの場合は、住んでいる街が占領されてしまったり、戦闘地域になったりして、国内で逃れている方がおられます。当然教育もそうでしょうし、いろんな部分で不便があり、サポートが必要な方がいます。
そういう方々を対象に、今後労働市場で採用されるようにデジタルスキルを身につける研修を行います』と説明した。

アフガニスタンの少女たちが来ていたような研修は今も行われているのかと聞くと、『日本にアフガニスタンの女子サッカーチームを招聘した頃は、アフガニスタンの女性が大学教育を受けられた時代でしたし、日本にやって来ることもできた。研修を受けて、戻ったときにそれを発揮する機会や場所もあった。ただ、近年は政治状況が変わってしまい、難しい状況になっています。昨年、アフガニスタンの首都カブールで女性向けの研修を実施できたのですが、女性への教育の機会がアフガニスタン国内で限られている状況で、特に対面での実施が厳しくなっています。
それで、国外に住むアフガニスタン国籍の方を対象にしたオンライン研修というように変わってきています』と情勢の変転を受けて、研修も変わってきているという。

広島に来てもらう研修では、『被爆者講話を聞いていただいたり、被爆者に直接お話を伺ったり、広島平和記念資料館を訪問します。また、被爆樹木を見ていただくという取り組みもあります。こういう体験は本当にオンラインでは得られないものになります。この事務所の近くにも被爆アオギリがありますが、爆心地から約2キロ以内で原爆の熱線と爆風を耐え抜き、ふたたび芽吹いた木々が100本以上あります。私たちは被爆樹木の種を海外に送る活動もしております。自然の生命力を感じながら種を送るのですが、環境保護の活動にもなるし、平和のメッセージを送る役割もあります。今年のピースユニフォームのデザインコンセプトは、「平和をパスする」だとおっしゃっていましたが、まさに平和を願う気持ちをその種を通じて、世界に送り届けるという活動をしております』と、個人で今から始められる活動もあるという。

スポーツが持つ「人と人をつなぐ力」と共創の未来

国連は、スポーツが平和と開発を促し、寛容と相互理解を育むと、近代オリンピックが初めて開催された4月6日を「開発と平和のためのスポーツの国際デー」と定めている。三上さんは、『スポーツには国を超えて、みんなが知り合って、一緒にプレーして交流を深めるという、平和や国の発展に貢献できる役割があると考えています。広島事務所では、Bリーグの広島ドラゴンフライズさんと覚書きを交わし、協力関係を築いていることもあり、この数年は4月6日に近いホームゲームで、国際デーやユニタールの活動を紹介しています。スポーツが好きな観衆に対し、ユニタールの活動を分かってもらえる。「平和への想いを持っていただけたらいいな」という気持ちを込めて実施しています。あと、今年は3月 8日の国際女性デーに合わせて、サンフレッチェ広島レジーナさんの試合日に私がその場でお話しさせていただいて、女性のエンパワーメントを応援しています、というメッセージを送りました』とスポーツに関する取り組みを紹介した。

国連ユニタールの取り組みは、ヒュンメルがピースユニフォームを続ける意図に合致する。それは好きなスポーツを通して平和の取り組みを知り、関心を持ってもらいたい、親子で話をするきっかけにしてもらいたい、という気持ちである。佐々木は、「エスエスケイとしては、『スポーツで人を、社会を元気に』というのがコーポレートメッセージなんですね。今、三上さんがおっしゃっていただいたように、スポーツにはやはり何か不思議な力があります。人と人をつなげる力がある」と話したうえで、エスエスケイの進める『スポーツ・コ・クリエーション』について説明を加えた。

「私たちは、いわゆるスポーツの価値を様々な方に対して伝えていきましょう、広げていきましょう、という取り組みを行っています。
その取り組みのひとつが、多様性という価値においては、アンプティーサッカーという切断障がい者によるサッカーのサポートであり、子どもの成長という面では、相手を思いやってプレーするキャッチボールイベント『キャッチボールクラシック』の推進です。平和の取り組みもそのひとつです。我々はまだまだ小さな会社ですし、微力ではあるんですけど、このスポーツの持つ特別な力というか、人と人と結びつける絆だったり、人の心を動かすその力を平和だったり、共生社会というところへ役立てて、貢献できないか、と日々考えています」とスポーツの可能性を広げていきたいと話した。

三上さんは、『ピースマッチの開催についても、サッカー協会さんをはじめ、株式会社バルコムさん、株式会社ミカサさん、それにエスエスケイさんや私どもも協力させていただいて、本当にいろんな方が関わって実現されています。一人ひとりの力は微力であっても、集まれば大きな力になります』とつながりが可能性を広げていく、という。広島県と長崎県のU-15年代によるピースマッチが始まって8年。ユニフォームを並べてみても、その時代の流れが感じられる。三上さんは、『DEI(多様性・公平性・包括性/Diversity, Equity, and Inclusion)についても、「もうやめよう」というような流れにアメリカではなっていて、日本の企業のなかでも追随するところもあるようで心を痛めていますけど、エスエスケイさんでは、東京プライドですとか知的障がい者サッカーですとか、引き続きされているとことに心強い思いがします』と話した。エスエスケイと国連ユニタールは、スポーツで多様性を推進し、平和な社会へとつながる一歩をこれからも共に歩んでいく。