• J1、J2リーグが開幕し、今シーズンから新設された2014明治安田生命J3リーグが、3/9(日)にいよいよ開幕。昨年のJFLから何がどう変わっていくのか、チームは何を思っているのか。開幕前レポートとして、チームの今を聞くために、沿道にまだ雪が残る福島を訪れた。


1973年5月20日生まれ、東京都出身
駒澤大学卒業後、ヴェルディ川崎に入団。ベルマーレ平塚、アルビレックス新潟などを経て、2005年よりヴィッセル神戸でプレー。2009年栃木SCでユニフォームを脱いだ。トライアウトの経験や数多くのチームでプレーしたことから、サポーターへの感謝の気持ちも強く、各チームのサポーターに慕われた。引退後は、ヴィッセル神戸でスクールコーチやU-15監督を歴任。甲南大学サッカー部のヘッドコーチも兼務した。20014年より福島ユナイテッドFCの監督に就任。

1982年10月30日生まれ、福島県出身
在籍8年目を送るチームの大黒柱であり、JFL昇格の立役者。“ミスター身体能力”と呼ばれるほどのキレのある動きが持ち味。昨シーズン途中からDFにコンバートした。

昨年まで2シーズン、福島ユナイテッドFCの監督は時崎選手の兄・時崎悠が務めていた。S級ライセンスの問題もあり、昨シーズンをもって退任。今季からは湘南ベルマーレでユースコーチを担当している。時崎選手は兄についてこう語った。「兄は湘南で勉強して、成長して、福島にまた貢献できるための期間を過ごしている。自分は一人ではないと思いますし、兄弟揃って福島のためにやっていくことに変わりはないと強く感じます。現役引退後、自分はコーチになることは考えていないので、選手として福島のためにプレーし、選手としてできることを福島に還元したいです」

今シーズン、福島ユナイテッドFCの指揮を執るのは、栗原圭介監督。竹鼻GMや時崎前監督とは、ベルマーレで共に過ごした時期がある。「福島には縁がなかったんですが、昔一緒に過ごした仲間から、連絡をもらって。前監督の時崎も一緒にプレーしていて。彼からも『僕自身も安心できるので、是非やってもらいたい』と。感謝であり、喜びですよね。トップチームでの監督経験のない私を誘ってくれた。クラブやスタッフの『一緒にチームを作っていこう』という姿勢にやりがいを感じます。『私ができることであれば、チャレンジしてみたいな』と監督を引き受けました」

竹鼻GMは、新監督起用の意図をこう話した。「監督っていうのは、選手が30人ほどいて、それにスタッフがいて。そのメンツを同じ方向に向かせて、頑張らせることができるか、そして人間性がどうか、が大事なんですよね。福島の監督は、チームの顔ということもあり、知事やスポンサーにも挨拶に行ってもらっている。そうした仕事も滞りなくできて、キャラクターや人間性に優れている。また、クラブがどういうサッカーを目指すのかっていうのは一番難しい。彼のサッカーはポゼッション。腰を落ち着けてしっかり作ってもらいたいですね。就任からまだ短いですが、期待していた以上にやってくれています」

栗原監督は現役時代、ヴェルディ川崎でキャリアをスタートさせ、ベルマーレ平塚やアルビレックス新潟、ヴィッセル神戸など多くのチームでプレー。36才で現役を退くまでに、トライアウトへ参加した経験が何度もある苦労人だ。「様々な経験ができたことで、特に現役最後の4年間、考える視線が変わりました。指導者の立場でプレーや練習を考える視点ですね。それが、今の自分に役立っているし、自分の武器になっていると思います。そのおかげでスムーズに監督になることができました」

選手時代から、「チームのこと、監督の考えをしっかりと理解しながら、自分らしさを出すことが理想」だと考えていた栗原監督。今もその考えは変わらず、「ある種、エゴイストな部分も必要ですが、バランスが大事ですね。チームとして同じ方向を見ている必要がまずあって。つまり、チームより自分が優先することはありません。福島では、個性を押し出している選手はまだ少ないです。いい意味で同じ方向を向いているからとも言えますね。浸透して定着すれば、変わってくるのかな、とも感じています


直前に迫ったJ3開幕。2月に降った大雪の影響で、週末に組んでいたトレーニングマッチが開催できないなどの影響を受けた。「雪のために調整が少し遅れていましたが、クラブがここ2週間で多くのトレーニングマッチを組んでくれました。試合をこなすことで、より仕上がってきたな、と思います」。開幕戦は昨年JFLで優勝したAC長野パルセイロ。「長野がどうというよりも、チームとしてやろうとしている形を、よりスピーディーに出せればいいですね。質はこれから。試合を通して新たな難しさが出てくるのではないかと思っています。順位などの目標は実は掲げていないのですが、攻撃的なサッカーをしたいですね。ボールを運んで、得点を奪って勝つ。常にトライして、ゴールに向かう。勝てるチームになる。メンタリティでは、プロとして常に練習から100%で臨む姿勢を見せる。苦しい時こそチームのために戦う姿勢で、シーズンを貫いていきたいです」

『福島のために』という言葉が、選手、監督、GMの言葉からそれぞれ見て取れる。背負うものが大きいが故に、真摯に前向きに戦う。共に前を向いて歩んでいく。時崎選手は言う。「やっぱり一番大事なのは、福島のために何ができるかってことですよね。震災、原発事故があって、まだまだ何も解決していなくって。復興に向けて、ユナイテッドの一員として、いろんな意味で明るいニュースを発信していきたいですし、勝ちにこだわる姿勢で、勝利という結果で応えたいと思います」

竹鼻GMは常に『経済効果、風評被害の払拭、エンターテイメント』という3つのポイントを大切にしている。「スタジアムに来てくれる人だけでなく、福島県民が『ユナイテッドがあって良かったな』と思ってもらえるための広がり。今までのサッカークラブがやってきたこと以上の広がりができれば、と思います。復興というのも終わりがあるのかも分からないですし、前の福島よりいい福島をつくるしかないと思うんです。より良い福島に向かって続けていく。スポーツだからこそできることがあるはずなので、我々だからできることをやっていく。福島を変えるっていうとおこがましいけど、福島のためになる、変えられる可能性があるのが、サッカークラブであり、Jリーグなんじゃないかな、と思っています」

最後に栗原監督の言葉で締めくくろう。「私ができることは、クラブをより良いクラブにすること。組織的にもそう。アカデミーもそう。チームを強くし、環境を整えていく。『一緒に作っていこう』と言われ、私の意見も取り入れて、新しい取り組みが始まっています。それに対して、誠心誠意全力で取り組んでいきたい。福島ユナイテッドは、経営存続の危機もあった中で、尽力して今までやってきた。当事者じゃない私ができるのは、今までの歴史や震災を受け止めて、今できることを全力でやるだけです。チームが大きくなって、福島を元気にする。市民、県民が応援してくれて、福島のシンボルになる。そして、それが福島の子どもたちの夢につながるのであれば、嬉しいですね」。そう、福島の子どもたちの夢。大人たちが守るべき子どもたちの夢のチャンスを、福島ユナイテッドが切り拓いていく。J3という新しい舞台で始まる新しい挑戦。震災3年目、福島ユナイテッドFCの2014年シーズンが幕を開ける。