• J1、J2リーグが開幕し、今シーズンから新設された2014明治安田生命J3リーグが、3/9(日)にいよいよ開幕。昨年のJFLから何がどう変わっていくのか、チームは何を思っているのか。開幕前レポートとして、チームの今を聞くために、沿道にまだ雪が残る福島を訪れた。


福島県福島市をホームタウンにしたJ3に所属するサッカーチーム。UNITEDとは、「結ばれた、団結した」の意味で、チームや選手、スタッフ、サポーターが”ひとつ”になり、福島が”ひとつ”になり、発展していくことを指す。2012年シーズン、東北社会人リーグ1部を連覇し、全国地域リーグ決勝大会で2位となり日本フットボールリーグ(JFL)昇格。初めての全国が舞台となった2013年シーズンは、18チーム中14位。2014年シーズンは、新設された明治安田生命J3を舞台に戦う。
【OFFICIAL SITE】http://fufc.jp/

昨年、初の全国リーグに挑戦した福島ユナイテッドFCだが、JFL2013年シーズンは18チーム中14位と低迷した。チーム在籍8年目と福島ユナイテッドの顔でもある時崎塁選手。昨シーズン途中からDFにコンバートし、新たな境地でプレーするが、J3への喜びは、それほどではないと言う。「今年からJ3になりますが、勝利で勝ち取ったわけではないんですよね。そういう意味では、JFLに上がった時の方が、嬉しかったですね」と、東北社会人リーグで優勝し、全国地域サッカーリーグ決勝大会を勝ち抜いた2012年シーズンを振り返った。「今回は、JFLからJ3にシフトしたというか。でも、やっぱり福島県にとっては、初めてのJリーグチームの誕生で、ユナイテッドもそれを目指してきて、達成されたということは、率直に嬉しいですね。J3では12チームで戦うことになるのですが、福島を含めて9チームが昨年JFLを戦ったチーム。ユナイテッドはその中で順位が一番下なんですよね。今年も相手は変わらないので、昨年の雪辱を晴らしたいですね」

GMの竹鼻快も、その点で時崎選手に同意する。「周りの盛り上がりがあって、『すぽると』とか『FOOT×BRAIN』とか、TV局も取材に来てくれているんですが、あまり期待に添えるようなコメントを言えないんですよね。JFLに昇格した時には地域リーグから全国リーグになりましたが、J3がバタバタと始まっている中で、みんなどうなるんだろう、と思っていて、まさにルイ(時崎選手)の言う通りでね」

福島に初めてJリーグのチームが誕生したというニュース。まだまだ市民、県民を上げての盛り上がりにはならないが、JR福島駅前に福島ユナイテッドを応援するのぼりがたったり、地元百貨店・中合福島店に、福島ユナイテッドオフィシャルショップができたり。はたまた、スポーツニッポンの地域版では、選手インタビューが連日掲載されたりと、街でも福島ユナイテッドを目にする機会が増えている。 昨年からホームゲームでキッチンカーを出す拉麺家の兵頭社長は、「お店のフラッグを見て、『ユナイテッド応援してるんですか?』って声を掛けてくれるお客さんが増えました。盛り上がってきているけど、まだまだ試合は見たことがない人の方が多いんで、是非スタジアムで見て欲しいですね」と語り、中合の福島ユナイテッドオフィシャルショップでコップを買った50代の主婦は、「震災の時もチームの方がボランティアしてくれて。頑張って欲しいですね。悲願のJなんで。いつか仙台や山形とみちのくダービーをして欲しいです」と、震災で街に根付いたチームに声援を送る。


「J3に入ったからどうという問題ではなく、昨年から今年、今年から来年と一歩一歩積み重ねて、より良いクラブになることだと思います。今までも福島ユナイテッドに関わってきた人たちがいっぱいいて、クラブが小さい時からの積み重ねなんですよ。その重ね方っていうのがクラブによって違うんだろうし、理想形もありますが、Jになったことで、その重ねられる厚みが増していけばいいですね。ただ、新しいリーグなので、過度な期待はしていません。『まだスポーツどころじゃない』という声も聞きますが、我々がしなければいけない最大の目標は、福島の人たちに『ユナイテッドがあって良かったな』と思ってもらうことなんですよ。それには3つの要素があって、まずは、経済効果。そして風評被害の払拭。最後に、サッカーという最高のエンターテイメントを楽しんでもらうこと」と竹鼻GMはチームの目指す方向性について語る。

経済効果については、ガイナーレ鳥取でGMを務めた時に経験済みだ。ガイナーレ鳥取は、日本で一番人口の少ない鳥取県からJリーグ参入を目指し、2010年にJFLで優勝し、J2昇格を決めた。J2は1999年に10チーム(J1は16チーム)でスタートし、2011年は20チーム(J1は18チーム)が参加するリーグに成長していた。「僕の場合、鳥取でJ2に昇格したんですが、J2に上がれた時の地域の喜びは大きかった。J2に上がって、AWAYのお客さんが増えて。鳥取で平均3000人が移動するイベントって、2週間ごとになんてできなかったんですよ。土日商売していて、試合を見に来ることができない人も、経済効果でそれを感じてもらえた。行政とクラブ、民間の三者がお互いに深い関わりを持って、『サッカーの好きな人にスタジアムに来てもらおう』っていうところから、街づくり的なところへとステージが変わっていったんですよね」

「例えば、福島だと、芝生のグランドを作りたいという目標があります。ユナイテッドの専用練習場ですね。ただ、それも1面だけじゃなく、2面、3面と複数のグラウンドを作る。そうすると、地元の高校や大学が使えて、色々なチームが活用できる。それこそ震災でトレーニング施設としては一時閉鎖してしいるJヴィレッジの役割を担うこともできる。現在、サポートしてもらっている飯坂温泉スポーツ合宿を企画すれば、20人から40人のチームが3泊、4泊としてくれる。そうするとユナイテッドとしてもお返しができる。『自分たちだけ』ではなくて、地域の人たちにつながる活動をしていかないといけないな、と思います。つまり、関わる人を増やしていかないといけないと思うんですよね」


1976年10月17生まれ、宮城県出身
湘南ベルマーレでの経験をかわれ、2007年よりJリーグ史上最年少でガイナーレ鳥取のGMに就任。2010年には、悲願のJFL優勝、J2昇格に貢献。2013年より福島ユナイテッドFCでGMを務める。


2011年3月11日、東日本大震災が起き、福島第一原子力発電所で事故が発生。放射能汚染による危険性から、福島県には立ち入り禁止区域が設定され、多くの人が県内外に避難することになった。3年が経過する今でも県内避難で約9万人、県外避難で約5万人が、自分の故郷で暮らすことができずにいる。さらに追い打ちをかけるように、観光客の足が遠のいたり、福島県産品を購入しないという風評被害が起きた。「福島県民ということだけで、『近くに寄るのは危ない』と言われた時期までありました」と話すのは、除染情報プラザの青木アドバイザー。「今、福島県産の主たる品目として、お米の全数検査を実施しています。2013年の秋に収穫したお米は、放射性セシウムが、ご飯1kgあたり最大でも2.5ベクレル。空気や大地など自然界にも存在するウラン・トリウムでの被ばく数値から考えても、まったく問題のないレベルです」と語る。さらに福島県のホームページでは、あらゆる品目の検査結果が確認でき、問題のないものだけが流通しているという。

昨シーズン、福島ユナイテッドは、福島県からの県外避難者を招待し、交流を図ること、深刻な風評被害払拭のため、福島県産の物産や観光PRを行うことを大きな目的とし、提携先の湘南ベルマーレのホームタウンでホームゲームを開催した。福島県双葉郡浪江町のB級グルメ「なみえ焼きそば」や福島の地酒を目当てに行列ができた。「今年もお米や物産をクラブが持って行って、もう一歩踏み込んで何かできないかと考えています。湘南のホームゲームでもブースを出して。その出会いから、次にお取り寄せとか、旅行にという風に福島と関わる人が増えていけばいいな、と思っています」と竹鼻GMは語る。福島産は安全だというPRだけでなく、福島県産の物品に触れる機会の増加が、今後大きな意味を持ってくるに違いない。

「2月には、湘南で2週間のキャンプを行って、プレシーズンマッチを平塚でやりました。福島ユナイテッドと湘南ベルマーレのファンクラブのブースを並べると、それぞれのサポーターが、お互いのファンクラブに入ってくれるんですよね。両チームをサポートする方が多くなっていますし、提携2年目で、昨年より浸透してきたかな、と思います」。昨年期限付きで福島に移籍し、今年湘南に戻った白井選手と吉濱選手。「湘南のサポーターは、昨年福島のホームページを見て、白井と吉濱が活躍しているかチェックしていたんですよね。今年は逆に、福島のサポーターが湘南のページで白井と吉濱の今を見る。さらに今年は湘南から5名の選手が期限付きで福島に加わりました。こうして相互に気に掛ける選手ができて、選手やサポーターが行き来することで、マーケットも広がっていくと思います」

竹鼻GMのビジョンは淀みがない。チームの目指す方向にブレがないことがひしひしと伝わってくる。「エンターテイメントということについては、週末、サッカーの試合を見て面白いと思う人って、人生をハッピーにするツールを一つ手に入れていることになると思うんですよね。『娯楽がない、誇れるものが街にない』と自虐的に福島のことを話す方もおられますが、福島ユナイテッドのゲームがその一つになれると思います。ただ、今シーズンJ3で、すぐにJ2を目指すということも実質できないんですよね。今のスタジアムでは、J2の施設基準をクリアできないんです。かといって、何十億もスタジアムにかけることは、今の福島では難しすぎる。まだ15万人以上もの方が県内外に避難していて、3年が経つのに除染作業が順番待ちで。さらに仮設住宅で不便な暮らしをしている方もおられて。だからこそ、『ユナイテッドがあって良かった』と思ってもらえる人を増やしていきたいですね」