• Fリーグのシュライカー大阪から、スペインフットサル1部リーグ・Umacon Zaragoza(ウマコンサラゴサ)へ移籍した佐藤亮(さとう とおる)選手。昨年9月のリーグ開幕戦から出場。スタメン出場した一節では、初ゴールも記録。日本代表で戦列を離れた時期はあったものの、スペインに渡って5ヶ月。カップ戦も含め22試合でプレーし、2得点。ヨーロッパ選手権で一時リーグが中断し、帰国した佐藤選手に話を聞いた。

 
1985年8月4日生まれ、新潟県出身、180cm/70kg
長岡ビルボードFCでサッカーを始め、帝京長岡高等学校、順天堂大学と進む。大学時代にフットサルと出会い、日本代表を目指す。関東リーグ1部FUGA MEGURO(現・フウガすみだ)の主将としてチームを率い、フットサル全日本選手権で、Fリーグ2連覇中の名古屋オーシャンズを下し、優勝。シュライカー大阪を経て、2013年9月、スペインフットサル1部リーグ・Umacon Zaragoza(ウマコンサラゴサ)へ移籍。ポジションはFIXO。
 
【OFFICIAL BLOG】http://ameblo.jp/sato-toru/

開口一番に出てきたのは「充実してますよ。刺激だらけで。ただ、もうちょっと結果が欲しいですね」という、満足ともこれからともとれる言葉だった。「日本人プレイヤーとして、スペインでプレーをして思うのは、やっぱり、海外でプレーする壁がまずあって、それを乗り越えてからが、ようやくスタート地点なのかな、と。僕自身、ようやくそのスタートが切れたんじゃないかな、というところですね」。 昨年3月に日本代表でスペイン遠征に行き、その後1ヶ月、スペイン1部のCaja Segovia(カハセゴビア)で練習に参加。そこで手応えを感じ、移籍へとつなげることができたが、やはり本場スペインに馴染むまでには時間がかかった。海外でプレーする壁。まずは、言葉の壁だ。

 

「昨年1ヶ月滞在して、言葉もだいぶできたと思いましたし、さらに勉強して行ったんである程度は大丈夫かなと思っていたんですが、やっぱり、細かいところがあいまいになってしまって。チームの中で僕が出せる良さって、戦術を理解してチームに合わせたプレーができることだと思うんですよね。流れの悪い時間に、監督の意図を聞いて、チームに入って流れを変える、みたいな感じで。もちろん合わせるだけではダメなのですが、自分のポジションは合わせることが大事なポイントの一つでもあるのに、踏み入ったところまでコミュニケーションがとれてないということが多くありました。プレーの細かい連携になると分からないままにプレーしているところも否めなかったですし。 2~3ヶ月経った頃に、この問題を解決するために、スペイン語の家庭教師についてもらってレッスンを受けることにしました。独学で勉強していた頃に比べて、チームメイトとのコミュニケーションが深まり、細かい戦術の話もできてきたことによってプレーの面で大きくプラスになったと思います」

 

二つ目は文化、考え方の違い。「主張しないことが何より『悪』なんです。自分が主張しないと、ミスが自分のモノになってしまうし、何も考えてないと思われるんですよね。最初、『えっ』て思った部分もあったけど、なかなか言い返せなくて。『トオルはもっと意見すべきだ』と監督に言われたこともあって、意識は変わってきている気がします。今はとにかく自分の意見をはっきり言うようにしています。言い合いになることもあるし、間違ってることもあるだろうけど、今の方が周りは自分のことを理解してくれていると思います」

 

最後に審判のジャッジの違い。「例えば、レッドカードの基準が違います。僕自身、リーグ戦20試合で8枚イエローカードをもらっていますが、累積での出場停止って多分ないんだと思います。失点のピンチでどうしようもない時は、抱きついてでも止めるのが鉄則。日本だとレッドで一発退場だと思うのですが、スペインだとイエローで、止めて当たり前のプレーなんですよ。あと、同じ意味合いでフィジカルコンタクトが非常に激しいですね。日本ではイエローカード出されるんじゃないかな、と思うようなハードなプレーが普通で、腕の使い方だったり、ブロックの仕方だったり。結果的にプレーの強度が当たり前に求められるので、とにかく最初の頃は、『こんなところまで』というくらい体中にあざができて、2時間の練習だけでヘトヘトになってましたね」


スペインではフットサルのTV放送があり、サポーターも熱心だ。街を歩くと「最初は中国人を意味する『チノ』って呼ばれてたんですが、今は『トール』と言われるようになって」。平均2500人は入る観客に、2012/2013シーズン王者のBarcelona(バルセロナ)戦では6000人の大観衆の前でプレー。「ゴールだけじゃなくって、いいプレーにはパスであろうと拍手があって。サポーターの声に流れを作ってもらうって本当にあるんだな、と実感していますね」

 

そんなスペインでのプレーは、3つの壁の克服にも時間がかかったが、プレーでも衝撃を受けた。第二節Inter Movistar(インテル)戦。インテルは、個人技に秀でたバルセロナと並び、チームとして成熟したスペインのフットサルを体現するようなチーム。「何もできなかったんですよね。ホント衝撃的でした。こんなに何もできずに決められたことって今までになくって。体を当てることすらできなかったんですよ。一人一人の技術はもちろん、判断が早く、なおかつその判断を間違うことがほとんどないので、ずっとボールを回されている感じでした。昨年まで名古屋オーシャンズでプレーしていたリカルジーニョのプレースタイルが日本でプレーしていた頃と全く違って、本当にシンプルにプレーしていたことも印象的でした」

 

スペインに行って1ヶ月余り。佐藤亮選手はブラジルで開催されるグランプリフットサル2013の日本代表メンバーに召集された。「今回代表で過ごしたのは2週間ほど。1勝もできず最下位で大会を終えました。代表チームとして、この結果には本当に悔しい思いをしました。ただ自分の中では以前に代表でプレーした頃と比べて少し余裕を持ってプレーすることができました。練習でもカオル君(森岡薫選手/名古屋オーシャンズ)に『当たりが強くなった』と言われて。体の当て方やボールを持っている相手との距離感はスペインに来てから意識してきた部分。スペインでプレーして1ヶ月。代表のメンバーと過ごすことで、少しでも自分の成長を感じることができたことはプラスになりました」


「スペインに来て3ヶ月が経過した頃、チームの戦術がフィットしてきたし、それに合っている自分を感じることができたんです。スペイン語でのコミュニケーションにも問題がなくなってきて、どんなチームや選手がいるのかも分かって。個人的にも、得点に関わるプレーにこだわりたいと思い始めたのもこの時期ですね。チームメイトで同じFIXOのポジションにレタマールというベテラン選手がいるんですが、PIVOと変わらないくらい点を取るんですよ。彼を見ていてもそうだし、スペイン代表のFIXOであるオルティスを見ても、守りはしっかりしていて、かつ点も取る。後ろの選手でもやっぱり得点が評価されるというのが改めて分かりましたし、それがスペインフットサルの強さでもあるのかな、と。自分もFIXOとして、もっと得点に絡んでいけたらチームにもプラスになるし、それは代表チームでも同じ事が言えると思うんです。身近にレタマールのような選手がいることで本当に勉強になるし、ポジションに関係なく得点の取れる選手を目指したいなと思うようになりました」

 

スペインに来てから、佐藤選手が大事にしているのが、ボールのないところでの駆け引きだ。「ボールをもらう前に相手選手との駆け引きに勝つことで、スペースができて、いい状態でボールを受けられる。当たり前のことですが、スペイン人はここの駆け引きが本当に上手い。(日本)代表で練習もするし、そういった意味では日本にいる頃からある程度意識してプレーはしていましたけど、スペインの選手はそれが感覚的にできていると感じますね。いい動きをすると、そのタイミングでボールが出てくるし、ゴールに直結する動きに繋がる。そしてもう一つがシュート精度。当たり前のことですが、シュートの精度が高い選手は、それだけゴールが多くなります。練習では、キーパーが指した4方向にシュートを打つ練習があります。コースを狙ってシュートを打つという意識を持った練習ですね。チームでも得点を多く取っている選手ほど、この単純なシュート練習の精度が高いんです。僕自身、以前に比べて前に出る意識が高くなってきたのと、ボールを受ける前の駆け引きを意識することでチャンスには絡めるようになってきました。あとはシュートの精度を高めることで得点に繋がるのかなと思っています」


チームメイトが佐藤選手に掛けた言葉の中で、印象に残っている言葉がある。『チームは常に一緒だ。一緒に戦おう。試合中、ミスがあっても、一人の失敗じゃない。それはチームのミスだから、チームで取り返そう。勝っても負けても常にチームは一緒だ』。スペインらしい気楽さといい加減さがありながらも、フットサルに対してはシリアスでハングリーだ。

 

チームメイトから日本人選手の評価を聞くと、『技術的には上手いけど戦えない』という見方が多い。その烙印を押されるのではなく、力強く、ずるいプレーも身につけ、スペインで戦う決意を決めた佐藤選手。レギュラーシーズンは4月末まで。その後8位までのチームでプレーオフが始まる。現在15チーム中12位につけるサラゴサ。ただ、8位との勝ち点差は9、5位とでも12と、5位以下の実力は拮抗している。14チームと2試合ずつ対戦するスペインフットサルリーグ。「1巡目で個人としてもチームとしても大きな差を感じたSantiago Futsal(ロベージェ)に、今年最初の試合で勝てたんです。まだまだトップチームとの差は感じますが、リーグ再開後もプレーオフ進出を目指して戦っていきたいと思います。個人としては、今感じている課題に対して取り組み、しっかりと結果を残して、まずはこのチームに必要不可欠な選手と言われるまでになりたい。そして、日本代表として世界の舞台で活躍するという大きな目標に向けて、取り組み続けたいと思っています」