未来に平和を繋ぐピースマッチ

8月7日から18日にかけて、ジュニアにユース、女子ユース、そして国際ユースの4大会をあわせた「HiFA 平和祈念 2019 Balcom BMW CUP」が広島市の各地で行われた。サッカーの競技力向上や交際交流、スポーツでの地域振興などとともに、平和の発信が大きな目的のひとつで、広島県と長崎県のユース年代が行ったピースマッチが注目を集めた。

広島市長が率先したピースマッチ

昨年、J1リーグで初めて実施されたピースマッチは、被爆都市をホームタウンとするサンフレッチェ広島とV・ファーレン長崎の第21節で行われた。試合前のセレモニーでは、両都市の被爆日を意味する86番と89番のユニフォームをそれぞれ着用するなど、スポーツから平和へのメッセージとして反響を呼んだ。

しかし、V・ファーレン長崎が今年はJ2でプレーすることになったため、Jリーグのピースマッチは違う形で行われることに。サンフレッチェ広島は、8月3日の北海道コンサドーレ札幌戦を「ピースマッチ~One Ball. One World.スポーツができる平和に感謝~」とし、V・ファーレン長崎は、6月29日と8月10日のFC琉球戦を「平和祈念マッチ」とした。

広島市の松井一實市長は、今回のユース年代のピースマッチを率先した。「サンフレッチェ広島とV・ファーレン長崎が昨年初めて実施したピースマッチは好評でした。出場した選手たちも感動したし、観戦した人たちもそう。平和のたたずまいの中でこそ、スポーツを堪能できる。今年、Jリーグで行うことができないとしても、これは続けたほうがいい、なくしたらいけないと思いました」と語る。

広島と長崎の平和への想いを表現したピースユニフォーム

松井市長から打診を受けた広島県サッカー協会がピースマッチ開催に向けて動くと、長崎県サッカー協会の殿村育生会長は、「8月に平和都市広島で行うピースマッチは、平和のもとにサッカーができることを表す大会となる。広島長崎から発信することに意味や力がある」と賛成した。

こうした流れの中で、ヒュンメルはピースマッチのユニフォームをデザインすることに。ユニフォームの最大の特徴は、両県の平和の象徴である原爆ドームと平和祈念像をどちらのシャツにも入れたこと。広島県選抜のユニフォームの前面には原爆ドーム、背面には平和祈念像を、長崎県選抜のユニフォーム前面には平和記念像、背面には原爆ドームをプリント。

世界でただふたつだけの原子爆弾の被爆地である広島と長崎が、同じ「核兵器のない平和」というゴールに向かって、お互いにリスペクトし合いながら、70年以上の歩みを続けてきたことを表現し、広島は長崎の、長崎は広島の想いや願い、悲しみを背負うデザインとした。

未来に平和を繋いでいく

大会の実現に向けて、中心的な役割を担ったひとりが、高校教諭や広島県サッカー協会事務局長、サンフレッチェ広島の寮長などを経て、現在は株式会社バルコムモータースの執行役員を務める中山正剛氏。「この大会の本質は、大人たちがやったことにあるのではなくて、子どもたちのためにあるもの。実際に広島に来て、自分の目で見て、考えてもらって、自分の想いを伝えてほしい。僕自身は、平和って人の痛みを分かる心を持つことだと思っていて、それはスポーツにも通じること」と大会の意義を語る。

ピースマッチは、両県のU-15、U-18で2日間にわたって行われ、長崎県選抜U-18には、V・ファーレン長崎U-18が出場した。北内耕成監督は、「広島での試合ということで、選手たちは広島には何時何分、どこに原爆が落ちたのか、などとも話していました。このピースマッチの意味をすごくよく分かっていて、今、自分たちがサッカーをできることに感謝の気持ちを強く持っています。こうした気持ちが日本全国に、そして世界へと広がっていけば」と話した。

広島県選抜U-18の山口滉太選手は、「相手のレベルが高くていい刺激になった。広島県の代表としてやらせてもらっていて、原爆のことも幼い頃から学んできた。自分たちから発信していくことが重要だと思う」と前を向いた。広島長崎両県の平和への願いを表現したユニフォームでプレーしたユース世代が、未来に平和を繋いでいってくれることを感じさせてくれた大会となった。

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