飲酒運転撲滅を学ぶ博多高校ハンドボール部の取り組み

福岡県福岡市東区にある博多高等学校は、SDGsをベースにしたミーティングや働く意味を考える授業など、人間力を育む教育で知られている。そうした学びのひとつとして、2011年に飲酒運転事故に巻き込まれて亡くなった2人の先輩を悼み、飲酒運転撲滅についても取り組んでいる。ハンドボール部では、他校にも発信するため、飲酒運転撲滅のロゴをユニフォームにつけ、公式戦に出場している。

ハンドボールから学ぶこと

博多高校ハンドボール部は、2014年に創部。2015年にはインターハイに出場するなど、九州では強豪校のひとつとして知られる。監督の林圭介先生は、「高校生活3年間、部活でも、日々の取り組みから学んだことがすごく大事。練習でできないことは、試合ではできない。99%の努力と1%の運。その運をつかむために、日々練習を積み重ねています。そうした中で、子どもたちのやる気スイッチが入るきっかけをつくることができればと思っています」と方針を語る。

大学卒業後、岡山県で教員を務めていた林監督は、博多高校ハンドボール部の創部に合わせて、故郷にUターンすることに。「その話をいただいた先輩の繋がりで、2011年に事故で亡くなった山本寛大(かんた)くんを知り、飲酒運転撲滅運動について学ぶことになりました」とユニフォームにNPO法人はぁとスペースがつくる飲酒運転撲滅のロゴを貼るようになったきっかけを語る。

「創部にあたって、ハンドボールを通して、全国のハンドボーラーや保護者、関係者に、飲酒運転撲滅運動について知ってほしいと思いました」と、寛大くんの母親でNPO法人はぁとスペースの代表を務める山本美也子さんとともに、県や九州、全国の高体連に、公式戦ユニフォームへのロゴ採用許可の談判も行った。高校の部活動では、企業やNPOの告知になるロゴをユニフォームに貼ることが認められていなかったためだ。

飲酒運転の危険性

アルコールには脳を麻痺させる機能があり、飲酒運転をすると、ハンドル操作やブレーキが遅れがちになる、動体視力が落ち視野が狭くなる、判断力や集中力が低下するといった危険性がある。実際に、警察庁の統計(2019年)によると、飲酒なしの死亡事故率が0.73%なのに対し、飲酒ありだと5.78%に急増。事故死率は約7.9倍と、飲酒運転は死亡事故につながる危険性が高い。

NPO法人はぁとスペースの山本さんは、企業や自治体、学校などでの講演会で、被害者家族として個人的に感じた悲しみを伝えるよりも、飲酒運転自体の危険性やそこから引き起こる問題を真摯に伝えている。「子どもたちは、お酒で身体がどう変化するかや飲酒運転が犯罪になるということをあまり知りません。アスリートもお酒について学び、身体的、精神的影響を知ることはプラスになると思っています」と、9年間で1000回以上の講演会を行なってきた重みから語る。

2011年に、博多高校の2人の生徒が亡くなった事故が起きたのは、高校でマラソン大会が行われる前日だった。そのため、博多高校では今でも、マラソン大会に合わせて、飲酒運転の危険性について学んだり、当日に2人の先輩に黙とうを捧げている。ユニフォームや練習用のウェアに飲酒運転撲滅運動のロゴを貼るのも、ハンドボール部から他の部活へ、また他校へと広がっている。

大事な命を守るため

全国でも飲酒運転の多かった福岡県では、2012年に、全国初・罰則付きの「福岡県飲酒運転撲滅運動の推進に関する条例」が制定され、2015年、2020年と飲酒運転撲滅の取り組みを強化する条例改正が行われている。

NPO法人はぁとスペースの山本さんは、取り組みの広がりを感じつつも、継続性が重要だと語る。「行政や企業に続いて、トラック業界もステッカーを貼ってくれたり、支援につながるラッピング自動販売機が300台まで増えたり。事故はなかなか減らないけど、続けていくことが大事なのかな、と。高校生がユニフォームにつけて試合をする。大事なことだと思ってくれるきっかけになると思います」

「飲酒運転事故により、失われた命が教えてくれたこと。それは、明日が当たり前に来ることはないってことなんです。そして、命が大事だということ。自分の命もそうだけど、人の命はもっと大事。そう思えば、危険な運転がなくなる。飲酒運転が減らなければ、明日事故に遭う人がいる。それは自分かもしれないし、自分の大事な人かもしれない」

未来に希望を繋げられるように、防げるはずの事故や悲しみが訪れることのないように。当たり前の明日が、当たり前に訪れることを願って。

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