22年前の熊本世界ハンドを体験した写真家「ハンドボーラーに写真を届ける」

11月30日に熊本県内の5会場でスタートした女子ハンドボール世界選手権。世界中から集まったカメラマンが、それぞれの国の媒体用に撮影を行なっている。その中に、熊本県ハンドボール協会の委託で、試合はもちろん、会場で行われるイベントや展示など細かな大会記録まで撮影しているカメラマンがいる。今回、大会レポートのひとつとして、磯口正人さんに話を聞いた。

ハンドボールのプレー写真

会社員として働いていた磯口さんは、子どもがハンドボールを始めた7年ほど前に一眼レフを持つようになった。「最初はアリーナの2階席から撮っていて。でも、それだと満足できなくなって、フロアで息子と所属チームを撮れるように、『タダでいいから撮らせてほしい』と協会に記録撮影の仕事を志願した。「ちょうど、熊本県ハンドボール協会にカメラの上手な人がいなかったんですよね」と笑う。

「小中高大、それに社会人、そして世界とハンドボールで全部のカテゴリーを撮ってるカメラマンは、僕だけだと思います。ハンドボールのプレー写真を撮り始めたのには、息子以外にも理由があって、それが、僕がハンドボールをしている写真がたった1枚しかないことなんです」

磯口さんは、2001年、地元熊本で開催された夏のインターハイ「ひのくに新世紀総体」に出場した。今と違って、カメラマンが大会記録用や販売用に撮影を行なったり、写真をシェアすることが当たり前ではなかった時代。「あれだけ打ち込んできたハンドボールの写真が高校時代の1枚しかなくって。それって悲しくないですか?でも、今のプレイヤーに、僕ならそれを残すことができるって思ったんです。手助けじゃないけど、そんな気持ちで始めたのがフォトブックで、5年前くらいから、優勝校のフォトブックをつくって、勝手にプレゼントを始めました」

22年前の世界大会が繋がる

熊本でハンドボールの世界選手権が開催されるのは、実は2度目のこと。1997年、男子の世界選手権が行われた。中学校でハンドボールを始めていた磯口少年は、父親に連れられて初めてハンドボールの試合を観戦した。「今、広島のイズミメイプルレッズで監督を務める中山剛さんが活躍されていて。開幕戦と(決勝トーナメント1回戦)日本vsフランスを観戦しました」と振り返る。この大会で3位になったフランスを相手に、一時は5点のリードを奪った日本代表は、少年の目に眩しく映った。同じ競技をプレーしてるとは思えなかった。『ハンドがんばろう。こういう舞台に立ちたい。絶対全国大会に出よう』、そう思った。

それから22年。当時13才だった少年は大人になり、カメラマンとして憧れの選手と同じ舞台に立った。そしてハンドボールをする息子がその時と同じ13才になり、開幕戦を観に来ている。「両親も招待したんです。親父があの時連れて行ってくれたから、今の僕があって。親孝行したいって気持ちで、招待のチケットを買いました」と言う。関係者枠でチケットをもらうのではなく、購入してプレゼントすることで、伝えられることがあった。

「スクリーンに22年前の映像が映った時は、感動しましたね。涙が溢れてきて、でも目が離せなくって。ずっと見てた。だから、このシーンに限っては記録用の写真が撮れてないんです」と話す。

ハンドボールの楽しさ

RAYHANDという屋号で、今春からカメラマンとして独立した。「令和元年ってことと息子の名前から名付けたんですが、特に名前にこだわりはなくって」。もともと機械には詳しく、カメラに慣れるのには時間がかからなかった。でも、ある時を境に写真のクオリティが上がらなくなった。「やっぱりひとりでやってると限界がきて。1年半ほど前に、カメラマンについて学びました。技術的なこともありましたが、大きな違いはコミュニケーションでしたね」と語る。

「例えば、オムロンピンディーズの撮影をさせてもらうことになっても、プレー後の写真だと、知らないカメラマンということもあり、距離が感じられて笑顔が出ないんですよね。そんなボタンがあればいいんですが、そういう訳にもいかなくって。レンズを通してのコミュニケーションをどうすればいいのかを学びました」

「ハンドボール(の撮影)は絶対僕ってなりたくって。今は屋外の練習をドローンで撮影したり、動画も始めようと思っていて。ハンドボールの面白さって、誰でもできることだと思うんです。ボールを取って、走って、跳んで、投げる。単純で面白い。絶対点が入るし、例えばバスケットボールに比べても、一旦審判にボールを預ける必要がないため、リスタートが速い。だから試合のスピード感が違うんです。写真を撮っていても面白い。だって、シュートシーンってカッコよくないですか。すごい絵になるんですよね。でも、撮影するより、声を上げながら応援する方がハンドボールは楽しめます。そうしたくても、そうなれないのがカメラマンの悲しいところなんですが」

2019女子ハンドボール世界選手権大会


熊本県で2019年11月30日から12月15日の期間、開催される第24回世界女子ハンドボール選手権。2年に1回開催されるハンドボールの国際大会で、今大会の優勝チームには2020年に開催される東京オリンピックおよび次回大会の出場権が与えられる。日本を含む24ヶ国が出場。
【大会公式サイト】https://japanhandball2019.com/

RAYHAND


息子のハンドボールの試合撮影をきっかけにカメラマンに。2019年に独立し、RAYHANDを立ち上げる。ハンドボールやバスケットボール、ボクシングなどインドアスポーツを中心に撮影。ドローン空撮も行い、企業PRの動画なども手がける。
【オフィシャルInstagram】@beach_lips

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