笑顔のタネをまく0円Jリーガー浅川隼人

サッカー選手というと男の子がなりたい職業で常にトップスリーに位置するくらい人気がある。その夢を体現している選手をJリーガーだとすると、今シーズン日本人Jリーガーは1596人(Jリーグオフィシャルサイトより)いることになる。しかし、全員がプロ契約選手ではなく、J3のクラブは、「プロ契約選手の保有人数が3人以上」であり、固定給が0円のJリーガーもいる。Y.S.C.C.横浜の浅川隼人選手は、その0円Jリーガーのひとりだが、行動力とオリジナリティで、新しいJリーガーの在り方を提案している。

身近なJリーガー

浅川選手は、大学卒業後の2018年よりY.S.C.C.横浜でプレー。2年目となる今シーズンは出場機会も増え、10ゴール3アシスト(25節終了、10月5日現在)と好調をキープしている。その浅川選手は、契約金0円のJリーガーで、自らをレンタルJリーガーと呼び、SNSを駆使して、サッカーコーチはもちろん、人生相談の相手、一緒にカフェや買い物に行くなど、自らの売り込みを行なっている。

その意図を浅川選手はこう語る。「YSCCの試合の観客数は最大で1800名ほど。J3の試合を見に行こうとするには、やっぱりその動機づけが必要になると思うんです。例えば家族に選手がいれば、スタジアムに行って試合を見ると思うんです。家族にはいなくても身近にいれば、その選手を応援しに行く。僕は、Jリーガーという肩書きを多くの人と共有し、身近に感じてもらうことで、スタジアムに来るきっかけをつくっています」

「先日の試合では80人を呼ぶことができたんですが、対戦相手も含めて、40名の選手が30人の観客を呼ぶことができれば、それだけで1200人。YSCCの最多観客数を実現できると思うんです」

また、チームの競合相手は、J1の横浜M・マリノスや川崎フロンターレ、J2の横浜FCといったホームタウンが近いチームだけではなく、リーガエスパニョーラやプレミアリーグもライバルになると話す。「今やダ・ゾーンで気軽にサッカーが見られる時代。子どもたちはスマホでバルセロナを応援し、メッシのプレーを目に焼き付けている。でも、その同じデバイスでJ3の試合を、Y.S.C.C.横浜の試合も見ることができる。メッシじゃなくて、浅川のプレーを見よう、と思うためには、やはりその人にとって、特別な存在になるしかないんです。僕なりの解決策が身近なJリーガーなんです」

セブのサッカー教室で感じた夢

浅川選手が、この夏に行ったJリーガーらしからぬ行動に、クラウドファンディングで行ったサッカー教室がある。彼は、J3の20節(8月10日)と21節(9月1日)の間の試合中断期間に、フィリピンのセブで子ども向けのサッカー教室を企画した。ダイビングが楽しめるリゾート地としても有名なセブだが、そんな高級リゾートの近くに、実はスラム街が存在し、スモーキーマウンテンと呼ばれるゴミ山で、ゴミ拾いを生業にしている子どもたちがいる。ゴミ山で死んでしまう子もいるし、ケガで足を失ってしまうこともある。

「そもそもは、僕の周りでセブで活動をしている人がいて、僕もセブに行ってみたいな、Jリーガーになれたし、セブの子どもたちとサッカーができたらな、という単純な理由からでした。サッカーで子どもたちに夢と希望を与えたいって思っていて、その想いに賛同する人がクラウドファウンディングで集まってくれました」と経緯を語る。

「『セブに行くよりも、日本で練習をしてもっと上手くなろうよ』という声もありましたが、セブでサッカーを知らない子どもたちとプレーしたことにも気づきがあって、上達のヒントがあった。セブにはサッカー文化がないから、子どもたちはそもそもキックオフさえ分からない。それを噛み砕いて、英語で伝えないといけない。いい経験がサッカーの価値観を広げてくれましたし、サッカーの見え方も変わってきたと感じています」と振り返る。

「そして、僕は子どもたちの笑顔や楽しんでいる姿を見るのが好きで、それが僕を幸せにしてくれたんです。『子どもに夢を与えたい』と思っていたのは間違いで、僕の夢は、子どもたちが夢を追えるような環境をつくりたい、そのお手伝いがしたい、ということだったんです」と新たな気づきと見えてきた夢についても教えてくれた。

子どもたちに笑顔のタネをまく

浅川選手は、千葉県の出身で、ジェフのユースチームに所属していたことがある。サッカー少年は、『寿人に動きが似てるな』とコーチのかつての教え子の名前を言われて、佐藤寿人選手(ジェフユナイテッド市原・千葉)を意識し始めた。そして今、自らを、「人より上手くないし、強くないし、高くもない」と分析し、「でもどうすればシュートを決められるのかをゴールから逆算で考え、ファーストタッチに意識しすぎないこと」を心がけているという。

練習試合ではあるが、憧れだった佐藤選手と同じピッチに立った浅川選手。「200ゴールの記念シャツにサインをもらったんです」と笑顔で話すが、「試合中もどう動いているんだろうと気にかけていましたが、スタンドで見ていた時とは違いましたね。『ここにいるんだ、それだとDFは嫌だろうな』と。結果、点も取られた。ずっと背中を追いかけていたし、やっぱり違うなと思いましたが、一緒にピッチに立って、やっとJリーガーになったんだと感じました。憧れじゃなくて、勝負しないといけない」と。

プロアスリートとして、J2、J1へ、また海外クラブへと高みを登ろうという気概はありながら、サッカーだけに収まりたくないと語る浅川選手。「クラウドファウンディングをしてみて、できる可能性があると思っちゃった。年俸ってステータスだし、自分の評価だから大事なんだけど、僕にとっては自分の表現したいことができることのほうが大事なんです。今は、アイドルカフェみたいなアスリート食堂ができたらと思っています」と笑った。

夢を追うJリーガーは、行動も素早い。台風15号で被害を受けた地元・千葉のためにサッカー教室を実施した。スタンドやグラウンド、公園やカフェ、はたまた食堂で。浅川選手が夢を追うと、子どもたちに笑顔の花が咲いていくようだ。

浅川隼人


千葉県出身のサッカー選手。2018年より、Jリーグ3部のY.S.C.C.横浜所属。ポジションは、フォワード。
【浅川隼人 Twitter】https://twitter.com/hayato_s11h

【浅川隼人 note】https://note.mu/881011

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