デンマークにおけるクリエイティビティの発揮について

3/18(水)に開催したhummel in Futureに続いて、代官山 蔦屋書店・Anjinにてヒュンメルインターナショナル社オーナーのクリスチャン・スタディールが講演会を実施。昨年12月に日本版が発刊された著作『デンマークに学ぶ発想力の鍛え方』(リーネ・タンゴーと共著・クロスメディア・パブリッシング)をベースに、クリエイティビティについて話しました。


ヒュンメルインターナショナル・オーナー
クリスチャン・スタディール

1971年生まれ。1999年、ヒュンメルファッションを立ち上げ、ブランドイメージを一新。ヒュンメルインターナショナル社のオーナーであり、その親会社株式会社THORNICO(トルニコ)の取締役として海運・食品・科学技術などに携わる。2004年、「スカンジナビアで最も注目されたビジネスマン」の一人に選ばれた。著書に「デンマークに学ぶ発想力の鍛え方」(共著・2014年・クロスメディア・パブリッシング)がある。

天然資源の少ない国でクリエイティビティがキーに

新しいクリエイティビティやイノベーションに関心がある人に人気だというこの『デンマークに学ぶ発想力の鍛え方』は原題を『In the SHOWER with PICASSO』といい、2012年に出版された。デンマーク発のクリエイティビティの本で、hummelの他、磁器のロイヤルコペンハーゲンや映画『ニンフォマニアック』など、世界的にも有名なデンマークの会社や人物を取り上げているため、デンマーク国内では大きな反響を呼んだ。

クリエイティブについて話すには最適だと思える空間、代官山 蔦屋書店・Anjinの金屏風を背景に話し始めたクリスチャン。「デンマークは非常に小さな国で、人口はおよそ560万人。面積は日本の8分の1程になります。デンマークは非常に天然資源の少ない国ながら、サラリーの月給レベルが世界でもトップクラス。この資源のない国が経済的発展を遂げているのは、デンマーク人のクリエイティビティとイノベーションである、と私たちは気づきました。この北欧の小国には非常にクリエイティブな企業が多くあります。ブロック玩具のレゴや、今年期間限定で『マンダリン・オリエンタル・東京』にオープンしたレストランNOMAなどは、日本でもお馴染みだと思います」


誰もが持ち得るクリエイティビティとは

「クリエイティビティとは、なにもアーティストなど一部の人に限られたものではなく、誰もが持っているものなのです。多くの人がクリエイティブについて考える時、上から降ってくる、神様から与えられると考えますが、それは違います。クリエイティビティと宗教は関連性があると言われています。インスピレーションには、神からの息吹を与えられるという意味がありますが、基本的に私は上から来るものだとは思っていません。パリの屋根裏部屋で素敵なものに囲まれて作られるものでもなく、一杯引っ掛けながらやってくる感じのものでもなく、天賦のものでもありません。今日一番強く言いたいことは、クリエイティビティはみんなが持っているもので、この場にいる一人ひとりがクリエイティブになれるということです。それにはハードワークと方法論があれば生まれてくるものだと思っています。デザイン会社や雑誌社、大企業のマーケティング部門など一部分に存在するものでもない。どんな企業でもあらゆるところから生まれてきます」

では、一体何がクリエイティビティなのか。この回答に関連して面白い調査結果がある。「アドビ社が世界各国の成人5000人にインタビューしたクリエイティビティの世界的動向に関する調査で、クリエイティブな国の一位に日本がなり、都市の一位に東京が選ばれたのです。ただ、ここで興味深いのは、唯一日本人だけが、自分たちの国や都市をクリエイティブだと考えていない点でした」

「クリエイティビティとは、既存の枠の外で物事を考えるのではなく、既存の枠の限界ぎりぎりのところで考え、活動することに関わる能力です。既に存在するものを最適化すること、例えば、日本の製造業で生まれた改善という考え方、他のモノを手本に新たなものを生み出すことはクリエイティブであると言えます。持続可能な未来を切り開くには、イノベーティブでクリエイティブな能力を高め、アイデアを売り物になる具体的な製品に変えるための投資や調査、インフラ、リーダーシップ、組織が必要になります」


既存の枠の限界を押し広げること

「ヒュンメルインターナショナル社では年に一度最優秀クリエイティブ賞の表彰があります。2年前ハイディという女性が受賞しました。彼女はアフガニスタンとのスポンサーシップを担当したのでも、コラボスニーカーの企画やデザインをしたわけでもありません。彼女は財務部に所属していました。彼女は債務者のコントロールにおいて新しい手法を生み出しました。子ども服の店舗の経済状態が悪くなっていた時に、どうやって回収するのかについて新たな発想が必要でした。クリエイティビティというのは、新しい価値を作り出していく、ということだと思います。誰でも引き出しの中にいいアイデアが入っている。それだけじゃクリエイティブとは言えない。金銭的、社会的価値を生むことができて、初めてクリエイティブだと言えるのだと私は思います」

「クリエイティブになりたいと思ったときに、何を最初にしなくちゃいけないか。それは自分がクリエイティブになると認めることです。クリエイティブになれるまで、クリエイティブな振りをする。すると思ったことに現実が追いついてきます。シャンソンの作曲家になりたかったら、その真似をする。ベレー帽を被って、バゲットを脇に挟んで、赤いスカーフをして、というように。クリエイティビティとは、既存の枠の限界に立ち、そこを探索し、限界をさらに押し広げることです。新たなものを有意義な形でこの世に生み出すことを、自分もできるのだと思い、実践してもらえればと思います。私たちは一般的に、自分の能力の限界に達して初めて、まだ試していないことがあることに気付くものですから」

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